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執筆者の写真S Mikaze

出雲の奥地 鬼の舌震

更新日:1月19日

 こんにちは、Mikaze です。


 お正月を過ぎまして、本格的な師走の寒さが続いていますね。

 今年は暖冬…のようですが、それでも0℃近くまで下がると体の芯が冷たくなります。

 ここまでいくといっそのこと雪が降ってほしいものです。

 白銀の雪景色にふわりと舞い落ちる雪の結晶は、寒さを超えて息を呑むように見つめてしまうことでしょう。

 体調には気をつけながら、冬の景色を堪能したいですね。


 さて、今回の旅路は、島根県奥出雲町にある『鬼の舌震』という場所です。

 なんだかおどろおどろしい名前ですが、訪れた者を唸らせる素晴らしい景勝地です。


 筆者はなぜここに向かったのかと言いますと、シャーマンキングという漫画が大好きでして、それに登場する木刀の竜というキャラクターがシャーマン修行の資格を得るため、放り出された場所として登場しているからです。いわゆる聖地巡礼というやつですね。

 ちなみに、島根県はシャーマンキングの舞台となった場所が多々あるので、点々と回ってきました。以前からずっと行きたかったので、本当にワクワクと感動の旅でした。


 その一端を皆さんにご紹介します。


 それでは、どうぞご覧ください。


 

. "恋"吊り橋を渡って


                                       舌震の“恋”吊橋


 まず、奥出雲町の宇根駐車場に車を停めて、舌震亭の月見そばで腹ごしらえ。


 鬼の舌震のはじまりは、『舌震の“恋”吊り橋』から。

 この橋から下は結構な高さがありますので、吊り橋効果の期待は大ですね。

 筆者は独り身なので、少しの恐怖感とスリルを味わっただけです。

 頑丈な造りだけど、ちょっと揺れます。


 ただ、後に分かるのですが、単に恋愛スポットという訳ではないようです。




 吊り橋を渡ると、今度は森の傾斜に沿った小道をズンズンと進んでいきます。




 渓谷の下で微かに水の流れる音がします。

 木々がなだれ込むように、下に向かって湾曲しているのが面白いです。



                                    巨大な岩が頭上を通る


 そして、巨大な岩がごろごろと転がっています。

 今にも崩れ落ちそうで、ピッタリとはまって鎮座しているのが不思議なくらい。

 苔むしたその巨体に大変圧倒されたのですが、写真ではうまく迫力が表現できません。




 さらに驚くのは、その巨石の上で堂々と生えている木。

 いったいどうしてそこから生えてきたんだとか、どうやって養分を吸い取っているんだとか考えてしまいますが、その逞しい生命力には身震いします。




 鬼の舌震という恐ろしげな名前の由来は、出雲風土記にあります。


 阿伊(現在の馬木)の里に玉日女命という美しい娘が住んでおり、この姫を慕って日本海に住む悪いワニ(鬼)が夜な夜な川を遡ってきた。

 姫は、このワニを嫌って大岩で大馬木川をせきとめ、姿を隠してしまった。

 しかし、ワニの姫に対する気持ちは変わらず、その後も幾度となく川を遡ってきた。


 と記されています。この“ワニの慕ぶる”が転訛して鬼の舌震と呼ばれるようになったといわれています。

 解釈が違えば意味が大きく変わってしまうような名前ですが、こんな悲しい恋話があったのですね。




 鬼の舌震は県立自然公園に指定されており、優れた自然景観だけでなく、学術的にも貴重な動植物が生息しているところでもあります。






. 奇怪な石、巨大な岩壁


                                     顔を覗かせる歪な岩


 10分ほど歩いたところで、木の隙間から歪な石が見えてきました。




 それにしても、凄い場所に道をつくったものです。

 まるでジブリの世界に迷い込んでしまったよう。

 この道を整備した先人の人々に感謝しながら歩きます。






                                          小天狗岩


 突如目の前に現れた、大きな岩壁。

 これは小天狗岩といいまして、遊歩道の対岸にあり、高さは60mもある大絶壁です。

 上部が烏帽子を被り、口を突き出した烏天狗にみえるのでこう呼ばれているそうです。




 さらに歩いていくと、面白い形をした岩肌が見え、そこにどっと水が勢いよく流れ出していました。

 どうやらひとつ下にも遊歩道があるようで、川の近くまで行けそうです。


 先に進んでいきましょう。




 わ。なんだこのデカイ石たちは。




 まさに行く手を阻むような石がごろごろ…




 清心亭という無料休憩所があるところで折り返して、下の遊歩道を渡っていきます。

 ちょうどここがポイント地点で、まだ先にもあったのですが大分歩いたので、引き返して帰り道を歩くことにしました。



                                         鬼の落涙岩


 さて、この帰路にも見どころ満載です。

 先ほどの岩を間近で見物すると、さらに奇怪さを感じることができます。


 これは鬼の落涙岩といいまして、顔面のような形をしており、鷗穴による2つの穴が目に見え、その間を水が流れる様がまるで姫に阻まれたワニ(鬼)が涙をこぼすように見えるので、こう呼ばれています。

 いわれてみると、確かにそのような気がしてきますね。







                                     そびえ立つ小天狗岩


 そして、先ほど見かけた小天狗岩が、さらに大迫力をもって目の前に現れます。




 よく見ると、烏帽子のような頭のでっぱりがありますね。

 なだらかな岩肌は、草木に覆われてその威厳を保ちつつ、見る角度によって違った表情を露わにします。




 眼下には奇形の岩が、相変わらずごろごろと転がっていました。 


 鬼の舌震一帯は、やや赤みを帯びた粗粒黒雲母花崗岩からなり、長年にわたる河川の侵食作用により深いV字渓谷をしています。

 この渓谷は、断層節理に沿って侵食がすすみ、約2kmにわたって蛇行を繰り返しています。両岸の岩壁は、節理面そのものが急崖をなして谷底に傾斜しており、谷底には巨礫が累積。この巨礫のなかには平らな面が残されているものが多く見られますが、これは崩壊以前の節理面の名残です。

 なるほど、以前は非常に滑らかな節理面だったようですね。




 こんな巨大な岩もありました。

 どれだけ鬼を拒んでいたのだ、姫よ。



                           玉日女橋目下の渓谷


 渓谷を後ろ目に玉日女橋を渡れば、スタート地点に戻ります。


 いやぁ、実に面白い景観でした。






. 渓谷に住む生きもの


                                 トノサマガエルを発見

 草むらに紛れて、トノサマガエルを見つけました。

 大きいですが、落ち葉に紛れて見分けがつかないくらいうまく隠れています。

 意外とかわ……いや、デカイです。


 この渓谷には、ヤマセミやカワガラスなどの清流にしか生息しない鳥類が見られる他、キセキレイやヤマガラなども多く見られるそうです。美しい声で鳴くカジカガエルや天然記念物のオオサンショウウオも生息しています。

 また、この周辺には野生のサルが生息しており、珍しいゴイシシジミなどの蝶も見られるんだとか。運が良ければ出会えるかもしれません。

 非常に豊かな生態系が育まれているのですね。



                                  鬼の舌震 散策マップ


 散策マップの看板が出発地にあります。


 筆者はこれを見ないで散策してしまいましたが、無事に戻ることができました。

 恋吊り橋から清心亭まで30分、下に降りて川岸の遊歩道を歩き、往復で1時間ほど歩きました。

 獅子頭岩まで行くルートは大分時間がかかりますので、そこに近い反対側の下高尾駐車場から残り半分をアプローチしてみようかな。





まとめ:恋の路は険しい



 今回は、鬼の舌震という渓谷を散策しました。

 少しでも魅力が伝わっていると嬉しいです。


 筆者、とある登山家が、単なる山のでっぱりに人が足を踏みしめることで、そこに意味が生まれてくると言っていたのを思い出しました。

 このような渓谷も、普通に眺めていればごろごろとした大きな岩がなだれ込んでいるだけなのですが、人が足を踏み入れて、その岩たちに名前をつけたり話をつくったりすると、もっと自然に興味が湧いてくるのではないでしょうか。


 鳥取県に続き、島根県の日本神話にまつわる地を巡って行ったなか、鬼の舌震はその名にそぐわぬ異端ぶりでした。

 筆者は他にも、黄泉に通じる穴といわれる猪目洞窟やスサノオを祀った須佐神社、シャーマンキングにもゆかりのある出雲文化伝承館などを訪れたのですが…それはまた別の話で。

 日本神話を知れば知るほど、辿れば辿るほど面白くなっていきます。


 鬼というのは悪者とよく扱われますが、この渓谷を歩いているとなんだか頑張り屋の健気な者に思えてきました。

 筆者も鬼に負けないくらい、めげずに頑張って恋愛成就させたいです。


 それでは、また次の記事でお会いしましょう。


 

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