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羅漢像

  • 執筆者の写真: S Mikaze
    S Mikaze
  • 2022年6月6日
  • 読了時間: 1分

数多の羅漢像が人間味のある表情を浮かべる中

一際微笑む老人の顔が私の目を奪って離さなかった

長い年月の経つその姿形は

苔にびっしりと覆われ、雨粒を遮る木陰の下で一層の貫禄を漂わせる

対してその表情は軽く朗らかで

まるで生きているかのようだ


老人は埃まみれの私を見透え

天狗の仰ぐ風のようにそれを払い去った

それから、老人の目下で起こる出来事は

時に荒れ狂っていようが大したことはなく

どこまでいっても地平線のように

平らで緩やかな曲線を描いていると悟った


どこかで鴉がざわめいたかもしれない

鹿が水辺にありつけたかもしれない

人が境内の前で手を合わせたかもしれない


しかし老人は笑っている


無常の響きが冴え渡る


しかし老人は笑っている





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