S Mikaze2022年10月18日読了時間: 1分夕刻の噴水薄暗く青い地面に光の粒が舞う 非現実の一角を垣間見たように これが最後の日だって誰かが言っても 冥土の土産にはならないって分かってる 子供も大人もその光に憧れる 思わず手をそちらに向けて 掴めないものを掴もうとする ありきたりな日がまた明日やってくると知っても...
S Mikaze2022年10月17日読了時間: 1分滝の下叫びたい 大嫌いなことも、つらいことも 大好きなことも、愛していることも いつもわたしは 小さく掠れた声で呻くようで 大勢の中に紛れてかき消されてしまう 叫びたい 繋がっているこの命を 生きているこの確かな感覚を 偉大な世界を全身に浴びて いつものわたしのように...
S Mikaze2022年10月7日読了時間: 1分ブルーベリー(たくさん)甘いか酸っぱいか、甘酸っぱいか その実を口にするまで分からない 何回も試してみては 同じことを繰り返す時もある とびきりの良いものを引き当てるまでじゃない とびきりの満足を得るまでだ 嘘つきを信じてみたり 夢の続きを考えてみたり ふらふら彷徨っては...
S Mikaze2022年9月28日読了時間: 1分焚き火試しにやってみることは とても勇気がいることだ 失敗と後悔を恐れているのは 炎のように長く生き続ける術を知らないから どうにかして燃え広がった魂によって 腹一杯に食べられる料理が出来た 寒さをしのぐ灯火が出来た 我ながら充分だと思う 充分な成果である...
S Mikaze2022年9月26日読了時間: 1分外側と内側落ち着きを与える平行線でも 冷静さと規律を与える垂直線でもなく 心を動かしたのは 平然と並べられた窓 その向こうに見えるピンク色のカーテンだった 室内から聞こえてくるのはクラッシックかピアノの音 置かれているのは木製の、彫刻の施された美しい家具...
S Mikaze2022年9月23日読了時間: 1分看板の道鮮やかな発色が 私を未知の場所へといざなう 心が落ち着くのはなぜだろう 歓迎の看板は、通りをかっさらう風を快く受け入れる どんな人物の侵入も拒まなかった 私は愉快になって、電柱の影を辿る 壁に書き殴られた落書きは呪文のようで 閉ざされた小さな扉はミステリアスな女性みたい...
S Mikaze2022年9月20日読了時間: 1分鯉一際目立つような 目立たないような そんな一匹が 流れる水に逆らって身体をうねらせる 鱗についた少しの朱色が 空を反射した水面と交差して 一瞬消えて、なくなった 同じ形のちがう模様の奴が その身の上を横切って 姿は煙に巻かれていった 瞳が群れを辿って泳いでいれば...
S Mikaze2022年9月16日読了時間: 1分成長昔、よく近所の子と遊んでいた秘密の場所は 上から見ると僅かな影を落としていて 人々は豆粒みたい 子供の目線で見ていた大きなものたちは あまりにもちっぽけだった 大人になって 失ったものはその尊さ その代わりに築いたのは 無知で愚かな人間の礎 そして破天荒な道を行く...
S Mikaze2022年9月4日読了時間: 1分裏路地薄暗い曇色の下 目を見張らなければ過ぎ去ってしまいそうな場所に 散りばめられた光があった 人の息づく看板が 誰かの羽目を外した笑い声が 肉のジュージューと焼ける音や、香辛料のスパイシーな香りが 私の頬に心地よい風を与えた 公に現れないものは多くあれど...
S Mikaze2022年9月2日読了時間: 1分雨宿り1928 雨粒が背中をおして 言われるがままに濡れた歩道を駆け抜けた 行き交う人もすれ違う車も せわしなく帰る場所へ向かっていく 窓から漏れる明かりは 夜の始まりを仄かに伝え どこかで聞こえるカラスたちの声は 夕食のスープを狙っているような気がする 視界を遮る電柱のすきまに 1928...
S Mikaze2022年8月10日読了時間: 1分サンドたまごハンサムなお兄さんが運んできた たまごサンドはたまごサンドじゃなくて サンドたまごだった 座ったら抜け出せないふかふかの椅子に どっしりと腰を落ち着けて 壁に埋め尽くされた謎のポスターを眺めていたら さながらロックミュージシャンのような心持ちでいたが...
S Mikaze2022年8月8日読了時間: 1分野宮神社境内に入るより先に、大勢の若者が集うのを見た 唐草や花模様のそれは互いに顔を合わせ 嬉しそうに笑ったりはしゃいだり まるで私の入る隙間はない 進学の祈願だろうか、それとも片思いの終わりを願うのか ともかくその浴衣姿が様になっていて 時代を超えた建造物の中にぴったりと収まり...
S Mikaze2022年8月7日読了時間: 1分花片隅にそっと顔を覗かせている その小さな放浪者は 瑞々しく身体を震わせ 風を断ち切って自分の居場所を見つける 恋に恋する蕾達や 過去に寂しさを残した細長い葉は 太陽の眩しさに圧倒されて 影をじんわりと地に映した あっという間に縮こまった身は その光を受け止めきれない...
S Mikaze2022年6月22日読了時間: 1分寄り道少年が誰かの名前を叫ぶ こっちだよ、と少女が話しかける 色とりどりの白と黒 学生服がぱらぱらと走りまわって なんでもない脇道を闊歩する 帰り道だろうか? 彼らのあどけなさが遠目に見えて どこかに忘れていたものが蘇る あの頃の私 夢を抱いた私 白い靄が辺りを覆っても...
S Mikaze2022年6月21日読了時間: 1分庭園鮮やかな緑は梅雨の訪れを密かに告げた 音は静かに柔らかな絨毯に染み込んでいく 植物たちはそこに共存し 主人の眺めたであろうその美しさを保っている 私は禁断の果実に触れるように その庭園に踏み込む時に息を潜めたが 誰もいないその空間に...
S Mikaze2022年6月7日読了時間: 1分竹林さらさらと 笹が揺れて静かな道に呼び込んだ ゆっくりとしなって 爽やかな空気を先へと送らせる 間には日の光がちらちらと輝き 私の足が地をついて 見上げれば伸びた矛先が 天に向かう勢いでそびえ立っていた 枯れ落ちた笹の葉が空を舞う 桜の花びらに似た儚さが...
S Mikaze2022年6月6日読了時間: 1分羅漢像数多の羅漢像が人間味のある表情を浮かべる中 一際微笑む老人の顔が私の目を奪って離さなかった 長い年月の経つその姿形は 苔にびっしりと覆われ、雨粒を遮る木陰の下で一層の貫禄を漂わせる 対してその表情は軽く朗らかで まるで生きているかのようだ 老人は埃まみれの私を見透え...
S Mikaze2022年6月1日読了時間: 1分ロマンス理性が飛ばされそうになって それでもいいと思えた時 突然、恋がやってきた ロマンチストにならなくても 甘酸っぱさも苦味も感じられる 時折自分を見失って、もがいて もがいても分からなくなって、 愛する人を目の前にした時 感情はむき出しになる 感謝のひとつもロクにできないが...
S Mikaze2022年5月20日読了時間: 1分ギャラリーにて器の形はそれぞれの個性が現れる その中には太陽の光と 愉快なレコードの旋律が染み込んでいる ザラザラした土の質感 ツルツルしたコーティング 少し歪な手作りの跡 職人の息吹が木製の机に並ぶ もしも淹れたてのお茶がここに注ぎ込まれたなら 香ばしいコーヒーが湯気を立てたなら...
S Mikaze2022年5月18日読了時間: 1分帰り道思いの外 夜の世界はすっきり 辺りの家々は点々と 大通りには街灯がぽつぽつ 隅々まで妖しい空気が行き渡り 月明かりに照らされた私の肌は 心踊らせ白く透き通る 五月蝿いものはすべて脱ぎ捨てた 丸裸のまま湯船から足を上げ 窓の向こうへ行きたいと願った記憶が 目の前を横切った...